細分化されている現状を理解する
APACの一部の国は、2050年までのカーボンニュートラル達成を目指して、大気中に放出する温室効果ガス排出量が吸収量を超えない、いわゆるネットゼロ目標を発表しました。 そして香港、日本、韓国は2050年まで、そして中国は2060年までのネットゼロ目標の達成を掲げています。
この期限を守るために、アジアの規制当局は超過炭素排出に違反金を儲け、特にひどい汚染を発生させながら改善を拒む企業に対しては、資金調達の手段を遠ざけようとしています。
中国、日本、韓国、ニュージーランドでは炭素市場への参加を義務付けており、ある企業が排出できる温室効果ガス(GHG)の量を実質的に制限しています。許可されている枠を超えて排出するためには、追加枠を時価で購入する必要があります。その後、政府は総排出量を上限を徐々に減らすことを計画しています。 現在シンガポールで採用されているもう1つのアプローチは、GHG排出自体に課税するという方法です。
アジア太平洋地域での排出権取引スキーム(ETS)
中国 | 中国全国ETS、地域パイロットETS |
インドネシア | 検討中 |
日本 | 東京都排出上限および排出権取引プログラム、埼玉県ETS |
韓国 | 韓国排出権取引制度 |
ニュージーランド | ニュージーランドETS |
フィリピン | 検討中 |
台湾 | 検討中 |
タイ | 検討中 |
ベトナム | 検討中 |
大気中に放出される汚染物質の量を制御することに加えて、高いGHG排出を行いながら、持続可能性計画を作成しない企業の資金アクセスを制限することは、間接的に排出を抑制する方法です。 より多くの銀行が、ESGパフォーマンスが不十分な顧客に持続可能なビジネス慣行へと舵を切ることを支援し、場合によっては、取引の停止に踏み切ることが期待されています。
たとえば、シンガポール金融管理局(MAS)の環境リスク管理に関する一連のガイドラインでは、銀行が環境リスクが高いと判断された顧客に対しては、より厳しいデューデリジェンスを適用することを期待しています。 銀行は必要に応じて、顧客企業と協力して炭素排出削減目標を設定し、これが達成できた場合には金利を引き下げることで、目標達成を支援できます。 顧客がリスクの適切な管理を拒否した場合、銀行は追加のリスク・コストを反映するための貸出金利の引き上げ、その企業に対する貸出総量規制、または取引停止が選択肢となります。
同様のガイダンスは、オーストラリア健全性規制庁(APRA)の気候変動金融リスクに関する健全性実務ガイド草案にも見ることができます。
一方、中国の中央銀行は多少異なるアプローチを取っており、今年初めからグリーンファイナンス事業における銀行の業績を四半期ごとに評価することにしています。 総資産および他の銀行に対するグリーンファイナンス事業の総価値、ならびにグリーン事業の年間成長率およびリスクなどの基準に基づいて銀行が精査されます。
アジア太平洋地域の銀行による持続可能性規制
オーストラリア | 気候変動金融リスクに関する健全性実務ガイド草案 |
中国 | 銀行金融機関のためのグリーンファイナンス評価計画に関するPBOC通知 |
香港 | 「気候リスク管理」に関するHKMAドラフトSPMモジュールGS-1 |
マレーシア | 検討中 |
ニュージーランド | 検討中 |
フィリピン | BSP Circular No. 1085 持続可能性金融フレームワーク BPS Circular No.1128環境および社会的リスク管理フレームワーク |
シンガポール | 銀行の環境リスク管理に関するMASガイドライン |
世界中の政府が炭素排出量の削減を目指す中で、前例のない規模のエネルギー転換は、金融業界にいくつかのリスクをもたらす可能性があります。
金融安定理事会の報告が指摘してい るように、政策変更により炭素排出コストが上昇し、一部の企業の生産コストが上昇し、利益の減少、株価の下落へとつながる移行リスクが存在します。 その結果、銀行や資産運用会社が保有する資産の価値下落の可能性があり、また銀行は負荷がかかった事業からの債権回収が困難に陥る可能性があります。
移行リスクに加えて、物理的リスクは気候関連のリスク下にある別の主要なカテゴリーです。 自然災害などの物理的リスクにより、住宅が損壊されこれが住宅ローン担保の価値を低下させた場合、借り手の信用力の低下、ひいては銀行のソルベンシーが損なわれる可能性があります。 銀行が実体経済への支援を弱めることになると、経済成長の停滞はひいては金融機関損失へと跳ね返ってくる可能性があります。政府が災害後の復興に多額の費用を費すことにより、ソブリンのデフォルトリスクが高まり、国境を越えて債券投資家に影響が及ぶ可能性があります。
これに対応して、アジア太平洋地域の規制当局は、銀行が気候関連のリスクを管理し、シナリオ分析を実施するための要件を発表しています。 シンガポールは規制を最終決定、香港とオーストラリアは現在、協議段階にあります。 マレーシアは2022年の第4四半期にリファレンスガイドを発表の予定、中国は枠組みを模索中です。
7月に発行された香港金融庁(HKMA)の気候リスク管理に関するガイドライン草案では 、気候関連リスクが、銀行業務にまつわる従来の各種リスクー 信用リスク、市場リスク、流動性リスク、運用リスク、法務リスク、さらには戦略的リスクにどのように影響するかを評価することを銀行に求めています。
ポートフォリオレベルでは、HKMAのガイドラインは、銀行が顧客の所在地とエネルギー使用量に着目することで、気候変動に対する脆弱性を評価することにより、リスクのある資産ポートフォリオを特定することを求めています。 取引先としては、相手方の財政状態、移行戦略、不良債権へのエクスポージャーを分析が求められます。
シナリオ分析の目的は、銀行がその収益性、流動性、および自己資本比率の観点から、気候変動に対する財政状態の脆弱性を評価することです。
今後の移行の展開に関しては、依然として多くの不確実性があるため、低炭素経済が秩序ある形で進むか、あるいは無秩序な形に陥るかの両面を含む複数のシナリオを検討することが、銀行には求められています。
シナリオシミュレーションにおいては、各シナリオごとに海面上昇や炭素価格などのさまざまな要因に関する仮定を調整しながら、物理的リスクと移行リスクを分析すべきです。
次に銀行は、これらの要因が収益、コスト、資産価値、借手の返済能力にどのように影響するかを評価し、主要なリスクカテゴリと財政状態 への総合的な影響を推測することができるのです。
このように、エンティティレベルでシナリオ分析を行うことが銀行に求められていることに加えて、オーストラリア、香港、日本、ニュージーランド、シンガポール、韓国の規制当局は、それぞれの国レベルで銀行セクターの回復力をテストするために気候ストレステストを実行する計画です。
バイサイドについては、シンガポールの資産運用会社に対しては、MASの環境リスク管理ガイドライン、また香港の資産運用会社に対しては、SFCの改訂ファンドマネージャー行動規範に基づいて、気候変動リスクを調査およびポートフォリオ構築において環境リスクの判定を組み込むことが必要です。
環境リスクが大きいと考えられているシンガポールの資産運用会社、また香港の場合には大規模資産運用会社では、シナリオ分析の実行が有効であると考えられます。
ただし、これらのリスク管理を実施するには、必要なデータが入手できるかどうかが鍵となります。 HKMA規制草案に基づき、銀行は不足する情報を顧客やデータプロバイダーから取得すべく勤める必要があります。
アジア太平洋地域の資産運用会社に適用される規制
オーストラリア | 投資ガバナンスに関するAPRAプルデンシャルプラクティスガイド(SPG 530)、気候変動の財務リスクに関するAPRAドラフトプルデンシャルプラクティスガイド(登録可能な退職者事業者に申請) |
香港 | SFC ファンドマネージャー行動規範、 SFC サーキュラー( SFC 公認のユニット信託およびミューチュアル・ファンドの管理会社) - ESG ファンド |
インド | SFC ファンドマネージャー行動規範、 SFC サーキュラー( SFC 公認のユニット信託およびミューチュアル・ファンドの管理会社) - ESG ファンド |
日本 | 日本スチュワードシップ・コード |
シンガポール | 資産管理者向け環境リスク管理に関する MAS ガイドライン |
台湾 | ESG をテーマとした証券投資信託基金の開示管理・監視に関する FSC 原則 |
このようなデータへのアクセス性を向上させるために、企業によるESG 情報の開示がますます求められています。さらにセクター全体でデータを比較できるように、共通フォーマットでの開示が理想的です。準拠できなければ説明するというアプローチでは不十分で、説明が必須の状態へと要件が移行しているだけでなく、上場企業を対象から他のセクターを含むものへと範囲が拡大されています。
香港は、昨年、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告の特定の重要な要素を組み込むことにより、上場企業に対して、準拠できない場合に説明を要求するESG報告要件を強化し、同様の要件を2025年までに必要なセクターに義務化すべく準備を進めています。
シンガポールでは当初、上場企業が持続可能性を遵守できない場合には情報を開示、説明する必要がありましたが、現在、金融機関が2022年半ばまでに開示を開始することを要請しており、2025年までに上場発行者のより多くの業種に対して、TCFD勧告に沿った報告を義務付けることを提案しています。
日本は、2022年に大規模上場企業、および2023年度以降に年次証券レポートを提出するすべての企業にTCFD方式による持続可能性開示の必須化を進めています。ニュージーランドは、早ければ2024年からほとんどの上場発行者および金融機関にTCFD方式の開示を義務付ける予定です。
また一部の当局はその地域の物理的リスクを評価するために必要となるデータの不足を解消するために動いています。例えば、オーストラリアのAPRAは、物理的な気候リスクモデリング機能を提供できる業者を探しています。また、マレーシアのデータギャップブリッジング委員会は、気候データの一覧を作成してサポートに務めています。
持続可能性への注目の高まりは、リスクだけでなく多くの機会をももたらします。 ESG金融商品に流入する資金の量は、近年大幅に増加しています。
持続可能で健全なESG市場を確保するために、規制当局は、グリーンウォッシングが投資家の市場への信頼を損なうことを防ぐために、グリーン金融商品と呼ばれるものに関する規則を制定し始めています。
これを実現するために、多くの規制当局はグリーン活動の定義に関する共通の言語を設定するための分類法の策定に務めています。
例えば中国には、グリーンボンドによる承認済プロジェクトの一覧表があり、これは基本的に、グリーンボンド発行者が資金を調達できる適格産業およびプロジェクトリストを提供します。